東京高等裁判所 昭和56年(う)2021号 判決
以上の事実によれば、これら偽造された印鑑登録証明書四通はいずれも各一通毎に独立した公文書であるから、順次完成された都度各一通毎に有印公文書偽造罪を構成するものと解するのが相当であり、たとえ、これら四通の印鑑登録証明書が、被告人両名及び栗木において、前記のとおり詐欺の手段に利用しようとの同一の目的の下に同一の日時、場所において同一手口で順次完成させた同一の意味内容を有するものであるとしても、そのことの故をもつて、これら四通の印鑑登録証明書の偽造が包括的に一罪を構成するものと解することはできない。従つて、これら四つの有印公文書偽造罪を互に別罪の関係にあるとした原審の判断は相当であるところ、関係証拠によれば、原判示のとおり、被告人両名は、栗木及び河村と共謀のうえ、昭和五六年一二月一一日増田栄三方において、同人に対し、前記偽造にかかる印鑑登録証明書四通のうちの二通(当庁昭和五六年押第七〇七号符号2及び同押号符号14の登記申請書添付のもの)を他の偽造有印公文書一通とともに、早川基彦立会の下に、情を知らない佐藤新太郎を介し一括して提出行使するなどして早川から額面金額四五〇〇万円の小切手一通及び現金五〇〇万円を騙取したことが認められるから、結局右印鑑登録証明書二通に対する各有印公文書偽造罪は、同文書が本件詐欺の手段として一括行使されたことを介して当初起訴された本件詐欺罪と刑法五四条一項前段、後段により科刑上一罪を構成することとなり、原審が前記のとおり右二つの有印公文書偽造罪について訴因変更を許可したのは、公訴事実の同一性の範囲内での適法な措置として肯認できる。しかしながら、前示のとおり、その余の印鑑登録証明書二通に対する各有印公文書偽造罪は当初起訴された本件詐欺罪とは元来併合罪の関係にあつたのであり、原判決もそのように認定処断しているのであるから、それにもかかわらず、原審が右二つの有印公文書偽造罪についても訴因変更を許可したのは、明らかに公訴事実の同一性を害し、刑訴法三一二条一項に違反する措置と認められ、右訴因変更許可決定によつて同訴因についての訴訟係属の効力は生ぜず、したがつて原審が右二罪についても審理判決したのは、同法三七八条三号後段所定の審判の請求を受けない事件について判決をした違法を犯したものというべきである。そして、原審は、被告人両名について、変更後の各訴因事実をすべて認め、右二つの有印公文書偽造罪はその余の有印公文書偽造、同行使、詐欺罪等と刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして一個の刑をもつて処断しているから、刑訴法三九七条一項、三七九条、三七八条三号後段により、原判決中被告人両名に関する部分の全部についてこれを破棄するほかない。………(中略)………
なお、原審の訴因変更許可決定によつて追加された訴因中、主文四項掲記の森田仁三郎に対する印鑑登録証明書二通を除くその余の同人に対する印鑑登録証明書二通について、被告人両名が他の共犯者と共謀のうえ昭和五五年一一月二九日ころから同年一二月二日ころまでの間被告人能見虎男方事務所において有印公文書偽造を遂げたとの部分は、検察官において公訴提起により審判を求めるべきであつたのにこの措置に出なかつたため、右事実については、適法な公訴提起がないまま原審に事実上係属する形となつたにとどまるから、公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であり、刑訴法三三八条四号によりこの点の公訴を棄却することとする。